朝井リョウ『正欲 』(ネタバレ)

正欲

朝井リョウ『正欲』 おすすめ4.1

※おすすめ度見方 0~1     読まなくてもいいかも?
1.1~2.0   100人いたら90人は微妙かも?
2.1~3.0   好みの違い。
3.1~4.0   読んで損なし。
4.1~5.0   いますぐ読もう。読み逃したら絶対に後悔する。

朝井リョウデビュー10周年の白版『スター』が、朝井リョウのこれまでの手札で勝負した快作とするならば、『正欲』はこれまでの朝井作品にあった共感度の高い物語性をかなぐり捨てた、作家としてのランクが一つ上がった作品。ものすごく深くまで、読み手の無自覚な意識に手を突っ込んでえぐり出そうとしている。そして徹底的に突き放す。検事を視点人物に据えたり、食品会社のディテールを盛り込むなど、著者と関係のない職種での描き込みも好印象。まず物語の構成がうまい。冒頭の新聞記事の内容が、最初と最後では全く違う意味を持つものになる。世間的には最も軽蔑されであろう小児性愛者。記事に名前を出された3名は断罪されるべきだと、小説でなく現実世界だとしても記事だけ読んだ人は思う。そう、私達は限られた・一方的なニュースや記事の情報だけで、そこにいる人達のことを判断する。どれだけ多様性の理解を求め、マイノリティの共生を訴える側も、受け入れる側も、本質的なことはもしかしたらなにもわかっていないのではないか?この作品に出てくるマイノリティは、水を見ると性的に興奮する人たち。登場人物の一人、検事の寺井啓喜からすれば、そういった人たちがいると「想像すらできない」レベル。では彼らの存在や性質は世間一般に理解を求められるべきなのか。共生を訴えてもらえるものなのか?平等が声高に叫ばれる世の中で、そんな甘いものじゃないっていう感覚を、過去にタイムスリップするでもなく、ディストピアでもなく、2021年現在の素材を使って積み上げていく。やがて出会う、同じ感覚を持った者たちの出会いが悲劇を生む。家の前での、大地と八重子の会話に泣きそうになる。「関係ねえんだよおまえが拒絶するかどうかなんて」(p,340)。生きづらい感覚、誰からも認めてもらえない感覚をぶつけ合い、その強弱を計り、結果的にマウントを取り合う。ルッキズム(なんて馬鹿な言葉がある)的観点からすれば弱者である八重子の主張を上回る大地の主張。その交わらなさ。やるせなさ。救われなさ。話し合うことが前に進む手段だと提示する八重子の、その後の展開。夏月と佳道の誰にもわかってもらえないという心の奥底から湧き上がる諦観。すべて正しい欲。なぜ男性器を女性器に突っ込むことは普通だとされて、水で性的興奮を覚えることは考えすらされない異常なことだとされるのか。全部正しい欲のはずなのに。誰がマジョリティで、誰がマイノリティなのかなんて線引が、救われる人間もいる一方で、絶望に叩き落されている人もいる?高橋源一郎さんのコメントがしっくりきた。

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